VOL.34 1996年12月6日 楽山
世界で2番目に大きな大仏がそびえる町・楽山
やっとムラウチさんと離れることができた。
昨日までは、ムラウチさんも僕が行こうとしている楽山に来ると言っていたのだけど、今朝になって、突然「成都にもう一拍する」と言い出した。僕が少々鬱陶しいと思っているのを感じたのかもしれない。
確かに鬱陶しいと思っていたのだが、一人になると、ちょっと淋しいものだ。
4時間バスに揺られて、楽山に着いた。世界で2番目に高い、71メートルの大仏がある町だ。
なのに、地球の歩き方にはほんの少ししか紹介されていない。今まで、釜山、ソウル、北京、西安、成都、全て大きな町だったので、小さな町に泊まるのは初めてだ。少しずつたびに慣れて、自信が出てきた。
バスから降りると、いつものようにたくさんの客引きがまとわりついてきた。
「不要、不要」
と言いながら、自分の目的地である迎賓大酒店を目指した。
どんどん歩いて行っても、一人だけしつこく食い下がって、ずっとついてくるおばちゃんがいた。
楽山教育賓館というホテルの客引きだった。「不要」と50回は言ったと思うが、おばちゃんはヘタクソな英語で「フォローミー」と言ってくる。
あまりにしつこいので、「多少銭?」と訊いてみると、「30元」だと返ってきた。僕が地球の歩き方に載っている、18元のホテルに行く、と説明すると、「没有」(ないという意)と言いやがる。
「うそつけ」と僕は日本語で言ったが、おばちゃんはまた「フォローミー」と行って、僕の前をズンズンと歩いていく。
おばちゃんが連れて行こうとするホテルへ曲がる道で、僕が無視して真っ直ぐ行こうとすると、「こっちだ」というように、また何かしつこく何かを言ってくる。
18元のホテルに行くのだ、と再度説明すると、おばちゃんは「20元」と言ってきた。
それでも18元のホテルより高いじゃないか、というのを英語や日本語や筆談やらで伝えると、とうとう「18元」と言ってきた。18元にするから、とにかく見るだけでもいいから来てくれ、と。
18元という言葉を信じて行ってみると、ホテル側としては、やはり20元ということだった。僕は、話が違う、とホテルを出て、また歩き出した。
おばちゃんはすぐに追いかけてきて、このホテルが一番安いんだと説明し出した。僕が目指す迎賓大酒店は桃源賓館と名前を変えて、高くなったという。
なるほど、彼女の持っている資料の住所や料金表から、それは理解できた。だけど、その資料が本物かどうかは分からない。
おばちゃんは、もし18元だったとしても、たった2元の差ではないか、歩くことを考えれば、このホテルに泊まった方がいいではないか、と喚き散らす。
確かにたったの2元だ。そもそも僕の持っている「地球の歩き方」の情報は、そのほとんどのものが古く、行くホテルのほとんどが値上がりしていた。だから、僕が目指すホテルも18元から20元以上に値上がりしている可能性は大きかった。
迷ったが、少ない可能性を求めて、おばちゃんが勧めるホテルではない、僕が目指すホテルに向かった。
道々で訊ねて、辿り着いたホテルは、客引きのおばちゃんが言ったように、桃源賓館と名前を変え、そして高くなっていた。3人部屋が25元だった。
選択を誤った後悔もあったが、しつこく、言い換えれば、熱心に説明してくれたおばちゃんに悪い気がした。
桃源賓館のMR.Yang
このホテルには英語を話すMR.Yangというおじいちゃんがいる。
どうやらこのホテルのオーナーらしい。ロンリープラネットには堂々とMR.Yangの名前が載っている。彼の経営するレストランがあるので、後で食べに来い、という。
18時にMR.Yangの店に行った。
僕は寒かったので、砂鍋が食べたいと言うと、スープならあると言われた。トマトとポークと野菜のスープがいいと言うと、オーダー通りに作ってくれた。中華スープで作ってくれたようで、おいしかった。
MR.Yangは三峡下りのチケットを安く買ってやるぞ、と言い出した。僕は怪しいと思ったので、友人と待ち合わせをしているので予約できないとか、持ち合わせがないので無理だと言った。
MR.Yangはしつこくなく、淡々と説明だけしてくれた。
重慶で買うと、日本人だとすぐばれるので、外国人料金になり、ここでもし買うなら、MR.Yangが人民料金で買ってやるぞ、ということだった。
そして今まで、白人でさえ人民料金で買ったチケットで三峡下りの船に乗り、なんのトラブルもなかったという。外国人旅行者と一緒に撮った写真やメッセージノートや感謝の手紙などを見せられて、僕はすごく迷った。
というのは、成都の交通飯店の中にある代理店では、手数料込みで300元だったと聞いていたからだ。MR.Yangに頼むと、正規料金306元+重慶への手数料30元+楽山での手数料10元=346元かかるのだ。
MR.Yangに成都の話をすると、あそこの手数料は多いはずだ、3等が300元なんて聞いたことがないという。船のランクが違うのかも知れない。
迷いに迷ったが、MR.Yangに頼むことにした。明日は土曜日でT/Cを換金できないので、現金40USドルもMR.Yangに320元で両替してもらった。
僕は今日、その船の代金346元と次の町、游亭舗までのバス代39元をMR.Yangに払った。
明日、それらのチケットを受け取りに、再度レストランに行くことになった。
こそこそしたところがないし、レストランには外人2人がわざわざ訊ねて来てもいた。世界的なガイドブックにも載っている有名人だ。信じていいだろう。たぶん。
でも少し心配だ。彼は自分のチャージは取らないと言っている。なぜだろう。信じてみよう。大丈夫だろう。たぶん大丈夫だ。たぶん。
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