VOL.37 1996年12月9日 重慶
重慶のチケット売り
朝起きて、ふとんの中で本を読み、昼からようやく外に出かけたが、重慶の町はどこも似たような店が並び、なかなか位置関係がつかみにくい。
とりあえず、ミニバスに飛び乗って、朝天門へ行った。
チケット屋がたくさん並んでいる。その一つをのぞくと、重慶-武漢の船の3等室で266元と書かれていた。
楽山のMR.Yangはやはり嘘をついていた。266元は夏までで、今は306元だと言っていた。
嘘くさいとは思ってはいたが、今さらながらに腹が立ってきた。住所が分かるので、抗議の手紙でも送ってやろうかと思うくらいだ。
船乗り場付近にも客引きが多く、しつこい。靴みがきもしつこい。僕の靴は革ではないのに、みがかせろ、と言ってくる。いらん、と言ってもずっと、どこまでもついてくる。
しかし、たったの1元でみがいてくれるという。革靴じゃないので、さすがにどうしようもなく断ったが、これくらいなら笑える。
笑えないのは、船のチケット売りだ。あまりに何人も寄ってくるので、楽山で買ったチケットを見せた。
それでも2等室のチケットを買わないか、としつこい。
いらん、と言って、船の近くの川岸まで行っても、ずっとその後をついてくる。
たちの悪いチケット売り。やましいことをしていた僕も悪いのだけど。
たちが悪かったのは、帰り際の僕に英語で話しかけてきた男だった。中国語をべらべらとまくしたてるチケット売りが多い中で、英語を話せる人がいると、少し安心する。
でも本当はそういう男が一番怪しい。
その男は船でどこまで行くのかと、英語で訊ねてきた。僕は武漢までだとチケットを見せた。そして、ついでに僕の中で疑問だった、チケットの本当の値段を訊ねた。
僕は結局MR.Yangにいくらぼったくられたのかを知りたかった。
英語を話すチケット売りは、値段を教えようとはしないどころか、
「このチケットは人民料金だから、お前は追加料金を払わなくてはならないぞ。今から事務所に連れて行ってやるから、来い」
という。
余計なことをしたがる奴だと腹が立ち、「僕は上海大学の留学生だからいいんだ」と言ってみた。
それでも奴は「いや、払わなくてはいけないぞ」という。
僕は「Why?」を連発したが、奴は引かない。
「事務所のマネージャーは英語がすごくうまいので、彼に説明してもらえ」という。
奴が指さした先の事務所らしき建物は、見るからに怪しそうで、僕は急に怖くなった。
「What do you say?」と、僕は強い口調で睨んでみた。精一杯の虚勢だ。
奴は言う、「お前のチケットは武漢までは行かない。周遊するだけだ。武漢まで行きたいのなら、あと270元払わなくてはいけない」
ますます怪しくて、僕は恐怖よりも怒りが増してきた、「何言ってのや。しばくぞ」と日本語で怒鳴る。
奴は半分顔を引き攣らして、「日本人がっ」みたいな捨て台詞を吐いて、ようやく去っていった。
奴のせいで、僕の不安は増々ふくらんでしまった。ただでさえMR.Yangにぼったくられているので、そのうえに外国人料金を追加させられたら、僕は悔しい限りだ。
誰を信じていいのか分からない。皆が僕から金をむしりとろうとしている。
昨日買った重慶の地図も、0.5元ほどだが、ぼられていた。中国でぼられる金額など、日本にしてみれば、どれも微々たるものではあるけど、人間不信になってしまう。人が嫌いになりそうだ。
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