目次
VOL.1 旅のはじまり
僕はこれから旅に出る
とうとう僕は船に乗り込み、神戸を離れた。
大学時代から思い続けていた、僕にとって人生最大の旅の第一歩を踏み出した。
出発の地となる六甲アイランドまではヨーコが送ってくれた。時間はたっぷりあったはずなのに、夕方ヨーコが迎えに来てくれる寸前までバタバタしっぱなしだった。
何ヶ月も前から準備をしていたのに、家を出てからも何か忘れ物をしているようで、あまりすっきりしない出発になった。
六甲に行くまでの途中の三宮でヨーコが寿司を奢ってくれた。食べる時間が30分くらいしかなかったので、一気に注文し、一気に口に詰め込んだ。しばらくこの味を体験できないことを思うと、いつもよりも増しておいしく、噛み締めた。
夜のフェリー乗り場
阪九フェリーの乗船場に着くと、アルバイト時代の仲間2人が見送りに来てくれた。しばし別れを惜しみながら、船に乗り込んだのは出港の10分前だった。あたりはもうすっかり暗くなっている。
フェリーの売店で紙テープを買って、3人に投げたが、あいにくの雨で、紙のテープはすぐに切れた。見送りは3人だけだったが、彼らが手を振り、僕も手を振った。少なくても、見送ってくれる人がいて、僕はとてもありがたかった。3人が手を降る姿を目に焼き付けて、これからの旅の糧にしようと思った。
神戸を出た船は夜通し走り続け、ようやく四国を過ぎようとしている。船内は団体旅行のおじちゃん、おばちゃんが多く、ピーチク、パーチクとしゃべり続け、笑い続けている。当然のことだが、誰も僕のことなど知りはしない。これから海外の多くの国をあちこち放浪しようとしていることなど、誰も知りはしない。ワクワクする期待が胸を打っていることも、不安や淋しい気持ちが体の奥から染みてくることも、誰も知りはしない。僕はこれから一人なのだ。
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